長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座:国の有形民俗文化財に指定されるかくれキリシタン信仰用具

 今年(令和7年)1月24日に開かれた文化審議会で、「長崎のかくれキリシタン信仰用具」2218点を国の有形民俗文化財に指定するよう答申が出されました。3月前半頃官報に告示され、正式に指定文化財となります。今回指定される資料は、長崎県下各地のかくれキリシタン信仰(以下「かくれ信仰」)で用いられていた信仰用具のうち、公立の博物館・資料館7館に収蔵されている資料です(所有者は県、市町とカトリック関係機関)。公立館の収蔵品が対象なのは、行政が責任を持って守れる状態にある資料だからです。
 今回指定される信仰用具の中で、平戸市内の資料は全体の8割にあたり、生月島南免にある平戸市生月町博物館・島の館に1758点が、平戸島根獅子にある平戸市切支丹資料館に42点が収蔵されています。島の館の指定対象資料はほぼ全てが生月島内のかくれキリシタン信者(以下「かくれ信者」)から寄贈されたもので、切支丹資料館のものは平戸島中部西岸の根獅子のかくれ信者と、平戸島北部に移住した外海系かくれ信者からの寄贈品です。なお島の館で今回指定となる資料は、長崎県文化振興・世界遺産課が指定に向けた調査をおこなった平成5年秋までに調査を終えたもので、調査を終えられなかった資料や、それ以降に組が解散して新たに寄贈された堺目、元触辻、元触小場などの津元の資料は今回の指定には含まれていません。これらについても今後調査を終え次第、追加指定の申請をしていく予定です。
 島の館では、昭和期に生月町中央公民館に寄贈された一部の資料を除くと、平成5年(1993)後半以降、島の館に寄贈された資料です。島の館では当初、平成7年(1995)11月の開館に向けた展示資料収集の一環として、信者の方に寄贈を呼びかけた時期がありますが、常設展示が完成した後は、積極的に信仰用具の寄贈を呼びかける事は控えてきました。それは、かくれ信仰の無形の要素である行事やオラショ(祈り)も重要な存在と捉え、それらが継承されるためには有形の要素である信仰用具を信者が保持し続ける事が重要だと考えたからでした。一方で、信者の方から寄贈を相談された時には対応してきましたが、その際には信者の方にお話を伺って、高齢や病気等で信仰具の保持や信仰の継続が困難と判断される場合に寄贈を受け入れてきました。そして寄贈の前に聞き取りや行事を記録させていただくよう相談し、信仰用具に関連する無形の信仰要素の記録保存に努めてきました。これによって島の館が所蔵する信仰用具の殆どは、それが何処の誰によって保持され、どのように祀られたのかや行事で用いられていたのかを、動画や画像などの記録として残す事ができています。このように信仰用具と記録の保存が出来たのは、島の館に十分な収蔵スペースや機材を持つ施設(収蔵庫・燻蒸機など)がある事に加え、民俗調査に対応できる専門の学芸員がいて、継続的な対応ができたからでした。しかし県内ではこうした状況は稀で、今回指定された他の地区のかくれ信仰用具の殆どは、元の所有者が分からなかったり用途の情報が不明な状態でした。
 今回の指定によってかくれ信仰用具の扱いは、施設の任意の取り組みではなく、指定文化財として行政が保存や資料の価値の掘り下げに取り組んでいくべき業務となりました。信者の皆さんからお預かりした信仰用具をしっかり守っていきたいと思います。   (中園成生)




長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

〒859-5706 長崎県平戸市生月町南免4289番地1
TEL:0950-53-3000 FAX:0950-53-3032