長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座 No.119「オラショの唱え順」

 生月島のかくれキリシタン信仰では、行事の際にオラショという祈りを唱えますが、唱えるのは男性信者に限られ、普通、声に出して唱えます。他の地域のかくれキリシタン信仰では、オラショは男女共に唱えますが、声を出さずに唱えるのが一般的です。生月島では何故オラショを声を出して唱えるのかについては、平戸藩の財政を支えた捕鯨が盛んだったので、お目こぼしがあったという説があります。しかし、捕鯨が盛んになる時期は弾圧が厳しかった時期より百年も後の事なので、捕鯨が理由だとは考えられません。一方で、生月島のかくれキリシタンのおもな行事でオラショを唱える際には、「一通り」「一座」という、全ての祈りを順番に唱えていく形が取られますが、この形が実はキリシタン信仰の頃から行われていた事が、宣教師報告の内容から分かってきました。

 キリシタン信仰当時、オラショは子供の頃にまとめて学習していた事は、1564年頃の平戸の天門寺について記した次の記述からも確認できます。
「 ジョアン・フェルナンデス修道士は彼らに(日本語を)教えたり、毎日、洗礼志願者たちに、そして日曜日にはキリシタンたちに説教したり、また毎日、子供たちに教理を教えたりした。子供たちはそれらを合唱して歌いながら暗誦した。「パーテルノステル」「アヴェマリア」「クレド」「サルヴェレジーナ」を彼らはラテン語で、その他のすべてを母国語で唱えた」

〔日本史1、63〕

 興味深いのは、記述にある「パーテルノステル」以下の祈りが、生月島のかくれ信仰のオラショの唱え方「一通り」の中でも、全く同じ順番で唱えられている事です。次に同時期の豊後の教会での記述を見てみます。
 「彼らに(教える際に)取る順番は以下のようである。すなわち「パーテルノステル」「アヴェマリア」「クレード」「サルヴェレジーナ」をラテン語で、また「デウスの十誠」と「教会の掟」、「大罪」と「これに対する徳」、ならびに「慈悲の所作」を彼らの言語で唱えるに止める」

〔Jフェルナンデス1561〕

 生月島の一通りでは、「パアテルノステル」「アヴェマリア」「クレド(使徒信経)」「サルベ・レジナ」「十のマダメント」「サンタエケレンジャのマダメント」「根本七悪」「サンタエケレンジャのサカラメント」「慈悲の所作」と全く同じ順番で唱えられています。異なるのは先の4つが宣教師報告ではラテン語の祈りですが、生月島では日本語の祈りになっている事くらいです。いずれにせよ、生月島のかくれキリシタン信仰の「一通り」でオラショを唱える順番は、1560年代のキリシタン信仰で子供の信者に祈りを暗記させる際に唱えさせた順番を、そのまま踏襲している事は明らかです。

 声を出して唱える習慣も、禁教によって外部に祈りを隠さなければならなくなる状況より前の姿を、そのまま続けていると考えるのが自然です。隣近所全てが信者なので隠し立てする必要がなかったのでしょう。オラショの唱え方からも、生月・平戸のかくれキリシタン信仰が、禁教以前の前〜中期前葉の信仰形態を継承している事が、確認できるのです。

2013.6

 




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