長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座No.214道具を用いた教育実践

生月学講座:道具を用いた教育実践

 博物館法によると登録博物館は社会教育施設と明確に示されている事もあって、登録博物館である島の館も様々な教育活動に取り組んでいます。その中には地域の小中学校の教育活動への支援というのもあり、令和2年度には18回約400人の児童・生徒に対して、館内や地域で様々な取り組みをおこないました。
 ここ数年多いと感じるのが、小学校3年生対象の「道具」をテーマとした館内研修です。島の館には、5つのコーナーからなる約1,300㎡の展示空間にたくさんの道具が展示されているので、道具の学習にはもってこいなのですが、投げかけをおこなう私達の方も、いつもの解説のようにコーナーの展示の流れに沿って内容を紹介するのではなく、道具に焦点を当てた説明をするためには、思考の切り替えが必要でした。
 そこで考えたのは、コーナーの基本的なテーマは活かしながら、道具と使い方の新旧に注目していくという方法でした。捕鯨のコーナーを例にすると、6,000年前の縄文時代には石や木の道具で鯨を取っていましたが、200年前の江戸時代には鉄や木で作った道具を使うようになっていました。ただどちらの時代も、鯨に接近したり、鯨に取る道具を投げたりするのはまだ人力に頼っていました。しかし明治時代になると、火薬の力を使って爆発する銛を撃ち込む鉄砲を使った捕鯨(銃殺捕鯨)が始まり、明治の終わり頃にはノルウェー式砲殺法が行われるようになります。この方法では、鯨に近づくのに動力機械(エンジン)を使い、鯨を仕留めるのも大砲から炸裂弾付きの銛を発射して一撃で終わるため、大変効率的に鯨を取る事ができます。そこまで紹介すると子供達は、石から鉄、人力から機械・火薬を用いるようになった事で、楽に沢山鯨が取れるようになった、つまり「進歩」した事は良い事なんだと漠然と認識します。
しかしそこで、進歩した事で困った事も起きたことについて子供達に考えてもらいます。みんないろんな意見を出してくれますが、その中に「沢山鯨を取れば鯨が少なくなったかも」と言う子も出てきます。そこで、ノルウェー式砲殺法を導入して暫くすると日本周辺の鯨が少なくなり、そのため新たに鯨を捕るようになった南極周辺の海でも(「とっても遠い所まで出掛けるようになりましたが何処でしょうか」という質問もよく行います)日本も含めて各国の捕鯨船団が競って鯨を取ったので鯨が少なくなってしまった事や、最終的に、商業目的で鯨を取らないという取り決めがされた事などを説明しています。もちろん一連の説明の中では、人間を含めた生き物が生きていくためには、他の生き物から何かを貰う必要がある事にも触れています。
また漁業の展示では、網などを浮かすのに用いる「浮き」という道具が、木の樽からガラス玉になり、現代ではプラスチックや発泡スチロールが使われている事を紹介しています。そのような浮きの「進歩」によって壊れにくくはなったのですが、いつまでも自然と同化しないプラスチックや発泡スチロールが海の生物や環境に与えている悪い影響についても説明しています。このように、「進歩」という言葉で言われる物や出来事の変化は、良い事ばかりではなく、困った事や問題も起きるのだという事を、道具を通して伝えています。道具を使った学習には、まだまだ大きな可能性があるように感じています。




長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

〒859-5706 長崎県平戸市生月町南免4289番地1
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