長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座No.231虚構系かくれ資料の価値付けのされ方

生月学講座:虚構系かくれ資料の価値付けのされ方

 

 9月の初めにフジテレビ系列で放映されたあるミステリーバラエティー番組で、かくれ(潜伏)キリシタンが紹介された時には、地元の方から「(このテーマなら)生月島の紹介があるかと思って期待したのに」という声もありました。実は番組の制作会社からは6月16日に市役所経由で生月島のかくれキリシタンへの取材の打診があり、取材内容や対象、日時の調整まで進んでいたのですが、翌17日には調整を打ち切らざるを得なくなりました。当初は生月島の取材のみのお話だったのですが、その後送られてきたメールで、石川県の某寺の取材と抱き合わせになっている事が分かったのです。この寺の資料は、本講座でも何度か取り上げた事がある「虚構系かくれキリシタン資料」=実在した潜伏キリシタン、かくれキリシタンがかくれキリシタン信仰に使用したという裏付けがないにもかかわらず、十字などの形や文様、特定の文字を持つ資料を、近現代人が専ら主観でキリスト教と結びつけ、かくれキリシタン信仰の信仰具だと主張されているもので、そこの情報と、生月島の実際に存在するかくれキリシタン信仰の情報が同じ番組の中で紹介される事は、虚構系かくれ資料の価値付けに繋がりかねない(正偽連結行為)恐れがありました。そこで制作会社に、石川県パートの取材が見直されるならば生月島のパートの取材に応じると伝えたのですが、(石川県パートは)掴みのインパクトになるため外せないと言う回答だったので、生月島の取材対応を打ち切った次第です。

 制作された番組も拝見しましたが、某寺に所蔵されている、仏像の下に観音開きの扉があって中に十字架があるようなものを信仰したという事例は、キリシタンの記録や実在するかくれキリシタンでも確認出来ません。また更紗と思われる小袖の柄に教会があるのは、単に図柄として教会がある町の風景が描かれたもので、着物自体がキリシタン信仰と関係がある訳ではありません。狛犬の顔の鼻筋と眉の線が十字をなす事や、宝篋印塔の基礎(石)に田の字に模様が配され仕切が十字に見えるというのは明らかなこじつけで、こういったものがキリシタンや実在するかくれキリシタンの信仰で、信仰に用いられた例もありません。

 後半の長崎や天草に関する紹介の内容は、概ね史実やこれまでの史料や聞き取り調査で確認されている実在したかくれ(潜伏)キリシタン信仰の情報が反映されたものだったので、問題無い内容だと思いました。しかしそちらの情報も、視聴者には冒頭の虚構系かくれキリシタンの情報と関連づけられてしまう事が残念でした。

 ただこの番組で一番問題となったのは、冒頭の某寺のパートに国立大学の歴史学の准教授が登場し、「キリシタンがここに集まって祈りを捧げていた」と発言してお墨付きを与える形となった事です。この発言の裏付けとなるような史料を私は知りませんし、番組中でも根拠は示されませんでしたが、視聴者はこの発言で、紹介された虚構系資料は実際にキリシタン・かくれ(潜伏)キリシタンが信仰していたものだと認識してしまったと思います。某寺の資料は、キリシタンイメージの分野で取り上げる意味はあるかとは思いますが、キリシタンやかくれ(潜伏)キリシタン信仰の信仰具だと断定するためには、宣教師報告等の確かな史料でキリシタンが信仰に用いていた事が確認できたり、実際に存在する(した)かくれキリシタン信者が(並存する仏教や神道の関係ではなく)かくれキリシタン信仰で用いていた事実を確認する必要があるのです。

 




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