長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座No241:かくれキリシタン信仰具の分類

生月学講座:かくれキリシタン信仰具の分類

 

 現在(令和5年)長崎県(文化振興・世界遺産課)では、県下のかくれキリシタンの信仰具に関する調査を行っています。その関連で島の館の館蔵資料についてもカード化や撮影の作業を行っていただいていますが、終了時には当館収蔵分だけでも二千点ほどにはなりそうです。この調査の基本的な目的として、どこにどのような信仰具が存在するのかを把握する事がありますが、特に県下かくれ信仰の二大系統である「生月・平戸系」と「外海・浦上系」それぞれの信仰具の特徴と、各系統下の中でも旧藩域や地域、集落、組織での特徴や、特徴が生じた理由を明らかにする事も求められています。そうした検証の際に重要となるのが信仰具の分類です。

 最も基本的なのは信仰具の形状に基づく分類ですが、例えば生月島の「津元(垣内)」という組が持つ主要な信仰具には、掛軸形の聖画である「お掛け絵」、聖水を納めた容器である「お水瓶」、麻紐を束ねて一端を括って握れるようにした「オテンペンシャ(お道具)」などがあります。一方外海の組は、年間の祭日や忌日を記した長帳形式の「日繰帳」を所持している他、「こんちりさんのりやく(利益)」「どそんのオラショ」「天地始之事」など、和紙を綴った冊子にオラショ(祈り)を記したものも所持されています。

 形状による分類以外に、信仰具がいつ、どのような経緯で導入されたのかという情報も重要で、時代的にはキリシタン信仰とかくれキリシタン信仰、どちらの段階に由来するものかが重要となります。この場合の「キリシタン信仰」は、16世紀後半~17世紀初頭にヨーロッパから伝来したカトリック信仰を、日本人が受容して成立した信仰を指しますが、特に同信仰は(当時の)カトリックの宣教師に教義的に指導されたものである点が重要です。一方「かくれキリシタン信仰」は基本的に、キリシタン信仰のうち一般信者が関係する部分を、禁教時代以降、他の宗教を並存する多信仰の構造の中で継承した信仰であり、各地域で宣教師との接触・影響が無くなった以降の信仰と捉える事ができます。以前は、かくれキリシタン信仰は禁教時代に信者が信仰内容を変容させた部分が大きいと考えられていましたが、最近は、キリシタン信仰の要素をそのまま継承している部分が大きいと考えられていて、仮にキリシタン信仰の要素に関係する信仰具をⅠ類、かくれキリシタン信仰段階からの要素に由来する信仰具をⅡ類とすると、明治初期に行われたカトリックの再布教活動でかくれ信者に配られたロザリオなどもⅡ類に分類されます。

 さらに信仰具の導入経緯についても注意する必要があります。例えばメダイや聖画はカトリック信仰にちなんだ信仰具ですが、外海地方のバスチャンの椿の木片などは日本のキリシタン信仰で独自に発生した信仰具であり、外海・浦上のハンタマルヤ像(マリア観音)は他の宗教に関係する信仰具を取り入れた事例となります。注意すべきは、かくれキリシタン信者が関係した神道や仏教の信仰具は、かくれキリシタン信仰とは別個に捉える必要がある点で、またかくれキリシタン信仰との関係が検証できない資料については、虚構のかくれキリシタン資料である可能性も含め、その扱いに慎重を期す必要があるのです。(中園成生)




長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

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