長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座:島の館の情報戦略(収集編)

   島の館の情報活動のうち、今回は収集に触れたいと思います。
   博物館の収集対象と言うと、民具や歴史資料、古文書などの実物資料を思い浮かべる方が多いかも知れません。例えば島の館では、生月島に関する古文書を寄贈・寄託の形で収集してきましたが、生月島が古式捕鯨業時代に最大規模を誇った益冨組の本拠地だった事から、展示の目玉でもある捕鯨に関する古文書を多く収集しています。開館当初から、益冨組(益冨家)が残した数千点の古文書を収蔵・展示する事が構想されてきましたが、様々な事情からそれは叶っていません。長年限られた研究者しか確認できない状態だった益冨家文書も、近年、福岡市総合図書館でマイクロフィルム画像が閲覧できるようになり、ようやく益冨組の捕鯨活動の研究を深化させる事ができるようになりました。こうした古文書は昔の文体で書かれているので、訓練を積んだ者しか読めず、時間もかかるため、現在の活字に置き換えた釈文という形で紹介されますが、これは〔一次的情報の提示〕にあたる発信活動になります。古文書の原資料(マイクロフィルム・デジタル画像などを含む)や釈文を紹介する事は、次の検証の段階のためにも重要で、それは研究成果を紹介した〔論考〕の検証のためには、原資料の情報を確認する必要があるからです。裏返すと、原資料の情報が確認できない状況で、その情報を用いた論考が発表されたとしても検証できないので、極論を言えば、論考としての価値付けができないとも言えます。
 島の館のもう一つの展示の目玉であるかくれキリシタン信仰については、収集面では開館前の平成5年(1993)から信仰具の収集や、行事の観察記録や信者への聞き取り等の調査を通して、実物の信仰具とともに、動画、オラショの音声、画像(写真)、ノートの記述などの膨大な情報(一次データ)を残してきました。これらの情報を活用する事で、例えば信仰具を寄贈されたある組では、特定の用具がどの行事でどのように用いられのかを確認する事が可能となります。ただ発信面では、その時々の業務に追われ、膨大な調査情報の整理を後回しにせざるを得なかった上、世界遺産などでかくれ信仰の従来の認識を早急に転換させる必要があったため、〔一次的情報の提示〕を飛び越え、〔概要報告〕として『生月島のかくれキリシタン』(2000年)を、〔論考〕として『かくれキリシタンの起源』(2018年)を、〔概説〕で『かくれキリシタンとは何か』(2015年)などを刊行してきました。検証の必要から他の研究者による調査も、信者の方の了承を前提で受け入れてきましたが、〔一次的情報の提示〕に繋がる事業にも、近年少しずつ取り組んでいる所です。信仰用具については、館の収蔵資料として整理する傍ら、県のかくれキリシタン信仰具調査事業でもカード化を進めて貰っています。動画については、令和4年度に国の文化観光事業補助金を用い、行事を撮影した400本近いミニDV映像をデジタルに転換し、一部をコンテンツとしてかくれキリシタンコーナーの放映機器で紹介しています。画像も、県の事業でカラーフィルムのデジタル化を進めて貰っています。ノートに記録した調査データも、私の退職を機に少しずつデジタルデータ化をしています。
 一次情報は全ての情報の価値を担保する基盤となるものなので、それを適切に保存し整理する業務の重要性を御理解いただければと思います。(中園成生)




長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

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