生月学講座:新たに確認された完形品のコンタツの価値
- 2024/10/30 14:11
- カテゴリー:生月学講座
令和6年春に平戸市生月町里免(堺目集落)の元かくれキリシタン信者宅から寄贈された信仰具の中に、キリシタン信仰時代に遡る完形品のコンタツがあるのが確認されました。このコンタツは信者宅で古くからかくれ信仰の御神体(信仰対象)として、禁教時代以降に整えられたと思われる神道の社殿型の祭壇に祀られていたもので、目の病気を治してくれる神様として祈願の対象になっていました。
コンタツ(ロザリオ)は、キリスト教で祈りを唱える時、祈った回数を確かめるのに用いる数珠形の祭具です。木やガラス製のトンネル状の穴を開けた玉に紐を通して環状に連ね、一カ所に十字架を付けるのが基本的な形態です。十字架の部分は、金属で十字架の形に成形したものを付けるタイプと(原城出土品など)、複数の玉を組み合わせて十字架の形を作るタイプがあり、今回のものは後者です。
キリシタン信仰期のコンタツには、小玉の数が50個(5連)、53個(5連+3)、63個(6連+3)のものがあるとされますが、今回のコンタツには63個の小玉と6個の区切り玉、3個の棒状玉の組み合わせで構成された十字架玉が付いていて、玉数は揃っているのですが、区切り玉の配置などが若干定形と違っています。生月島のかくれ信仰でコンタツは過去8例程確認されていますが、玉数が規定数に満たないものばかりで、玉数が揃ったコンタツは今回のものが初めてです。長崎県の他のかくれ信仰地域でも、キリシタン信仰由来のコンタツで球数が揃ったものは見つかっていません。一方、大名家に継承されたコンタツや、大阪府茨木市千提寺のかくれ信仰で所持されていたコンタツには、小玉が63個揃ったものが確認されています。
さて、堺目で行事の時に唱えるオラショの唱え方には、33の祈りを唱える「一通り」と、その中のおもな祈りを唱える「六巻」がありますが、堺目では、六巻の中でキリアメマリアという祈りを63回繰り返し唱えると一通り同等と見做す決まりがありました。キリアメマリアでは、「キリエ」というギリシア語の文句の後、「パーテルノステル(Pater Noster、主祷文(天にまします))」と「アベ マリア(Abe Maria、天使祝詞)」というラテン語の祈りを唱えます。カトリックの「ビルギッタのロザリオ」は、推測されたマリアの年齢に応じて天使祝詞を63回唱える形ですが、慶長5年(1600)刊行の『どちりいなきりしたん』の「コロハのオラショの事」の項には、「たつときビルゼンマリヤのコロハと申て、六十三の御よはひ(齢)にたいし、パアテルノステル六くはん、アベマリヤ六十三ぐはん申しあぐる事もあり」とあり、63回繰り返し唱える形はキリシタン信仰当時からのものである事が分かります。但し先述の「コロハのオラショの事」の項には、パアテルノステルを1回とアベマリヤ10回を1組として唱えていくとあり、この形が今回確認されたコンタツの区切り玉と小玉の配列と一致し、このコンタツがコロハのオラショを唱えるのに使われた事が分かりますが、堺目かくれの(一通り並みの)六巻では、パーテルノステル1回とアベマリア1回の組を63回繰り返す形になっています。
ともあれ堺目のかくれ信仰には、キリシタン信仰期に唱えられたコロハのオラショに用いられた祭具(コンタツ)と、63回繰り返す祈り方が残っていた事になります。 (中園成生)