長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座:日台鯨・イルカ生態セミナー

生月学講座:日台鯨・イルカ生態セミナー

 今年(令和7年)の10月24日、島の館で「日台鯨・イルカ生態セミナー」が開催されました。この事業の主催は台湾の海洋委員会海洋保育署と財団法人台南市台日文化友好交流基金会で、共催が島の館、後援が平戸市と台湾の成功大学で、平戸で生まれた鄭成功の縁で友好都市を結んでいる台南市サイドからの「鯨類がテーマの学術交流会を島の館で開催したい」という申し出に応える形で開催されました。事業の意向が伝わったのが8月の終わりで、事業の調整や日本側報告者の依頼など準備は大変でしたが、前後の研修も合わせて充実した内容の事業になったと思います。
 セミナーでは主催者である基金会の李退之薫事長が「台日漁業の絆」という題でスピーチをされた後、第1報告で成功大学の辛致煒教授が「海の国の夢と哀しみ-恒春建城・捕鯨業の興亡と地域変遷」で、台湾南部の捕鯨に関する歴史的事象を紹介されました。第2報告では平戸の松浦史料博物館の久家孝史学芸員が「松浦史料博物館所蔵の捕鯨関係史料」で、同館所蔵の「鯨史稿」などの捕鯨図説や、幕末期に的山大島に漂着したアメリカ捕鯨(母工)船の銛が刺さった鯨の図などの貴重な史料の紹介をされました。第3報告では(台湾)国立自然科学博物館の姚秋如副研究員が「分子遺伝学と長期座礁データの統合解析-台湾周辺におけるヒゲクジラ類の多様性と個体群のつながりを探る」で、台湾周辺における鯨類の漂着や鯨の目視事例について報告されましたが、台湾沿岸で座礁したミンク鯨は日本海を行き来するJ群の特徴を持つ事や、台湾東岸中部の沖合にある海底谷付近での鯨の目視事例が多い事などが紹介されました。第4報告では佐世保市の西海国立公園九十九島水族館の川久保晶博代表取締役が「西海国立公園九十九島水族館の鯨類調査の取り組み」で、館が関わっている大村湾のスナメリ調査や、五島南東沖での抹香鯨調査の概要について報告されましたが、大村湾では夏期にスナメリの目視例が減る事や、抹香鯨の目視事例が五島南東沖にある海底谷付近で多い事などが紹介されました。第5報告では国立自然科学博物館の張釣翔研究員が「氷河期の島嶼連鎖に刻まれた記憶-地質・古生物から古人類まで、第四紀における台湾と日本の関連性」で、台湾から南西諸島にかけての人類の足跡と、黒潮を介した航海での台湾と南西諸島の交流の可能性について報告されました。第6報告では中園(島の館館長)が「生月島の捕鯨の歴史」で、日本捕鯨の概要紹介も含めた生月島の捕鯨史を報告しました。第7報告では成功大学の王浩文教授が「鯨・イルカの座礁対応からESG海洋台湾へ」で、台湾の座礁鯨類に関する法制度の整備について報告され、法整備がなされた2018年以降、金門島・媽祖島・澎湖諸島などの座礁鯨類の報告事例が増えた事などが紹介されました。第8報告では臺東大学の鄭憲宗教授が「海の記憶と未来-スマート技術がつなぐ文化と創造」で、海洋データセンターによる海洋に関する情報の集積とAI分析の活用について報告され、具体的事例として声の分析によるイルカ言語の確認や、海洋汚染の画像検知などが紹介されました。なお各報告の内容は基金会の郭貞慧名誉薫事長が相互の言語に訳されて伝えられました。
 なおセミナーに先立つ23日には台湾の研究者による呼子の鯨組主中尾家屋敷や小川島の視察がおこなわれ、セミナー後の24日には生月島を中心とする平戸市内の捕鯨史跡の視察、25日には川久保氏のご厚意で九十九水族館の視察がおこなわれ、皆さんに喜んでいただきました。
(2025年11月 中園成生)




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