長崎県平戸市生月町博物館「島の館」

生月学講座 No.018「シャーギ・シャーハギ 」

 壱部浦や舘浦の網元さんや旋網の事務所、昔網元さんだった家などで、正月に、魚を吊り下げた飾り物をする所が何軒かあります。この飾り物の事を壱部浦ではシャーギ、舘浦ではシャーハギと呼んでいます。
 今は玄関に飾る所が多いですが、昔は、家のニワ(土間)の壁側に飾っていたそうです。天井から下げた2本の紐に、長さ1.5メートル程の松の丸太をかけていて、この丸太の事をシャーギ(シャーハギ)と呼んでいました。丸太は、根元側を家の奥に向けて下げた所が多いようですが、反対に入口側にして下げる家もありました。前の例については、根が家側に張り葉が外に向かって茂る形になるので良いとされていますが、あとの例では、後述する魚の掛け方と同様、家内に向かって伸びるのが縁起か良いとされていました。また丸太だけは一年中下げたままか巻き上げておくかしましたが、その家で不幸があった時に取り替えたり、その中でも戸主が亡くなって代替わりする場合に限って取り替えるという所もありました。シャーギを切ってくるのはコヤシトリさんといい、その家の下肥を汲む農家の人にお願いしました。昔は下肥は麦や芋を作る肥料の原料として貴重で、漁家にとってコヤシトリさんは一番近い親戚と同じ高い扱いだったそうです。
 シャーギの丸太には縄が等間隔に付いていますが、元はその年の旧暦の月の数と同じ本数の縄(12~13本)を付けたそうです。中央側の縄には、鰤・シイラ・鰹・鯛・鯖・鯵・秋刀魚・烏賊・飛魚など、漁で得た魚を塩漬けにしたものを付けて下げました。横向きに付ける場合には5尾や7尾など奇数にして、必ず家の中に泳ぎこむ向きにしました。縦に掛ける場合は腹を家の中側にして回って泳ぎ込むような形になるように掛けましたが、別に、鯛や鰹を2匹腹合わせにして口を括るカケノイオの形で掛けることもありました。また丸太の両端には「モトカブウデダイコ」といい、根元側に蕪を、先側に大根を各々2本ずつ、葉の部分を結んで丸太をまたぐように掛けました。家によっては、モグラウチと呼ばれる藁づとを下げたり、藁づとに大根の輪切り・豆腐・干鰯をまとめて刺したものを付けたりする所もありました。また背後には莚を下げ、上に注連縄を飾ったりもしました。シャーギの飾りつけは12月28日頃に行われ、家の者が行う場合もありますが、昔からコヤシトリさんに頼む場合が多かったようです。
 正月に飾っている間に、下げた魚は段々に食べられて骨だけになっていきますが、残ったものも二十日正月には下ろしました。骨しか残ってないのでその日の事を「骨正月」と言ったそうですが、中には飾っている間は全く手を付けないで骨正月に全て下ろし、月末の船祝いの時にゆがいて食べたという所もあります。
 シャーギのような習俗は、平戸地域以西の、壱岐、五島、長崎、天草など九州西岸に分布しているようで、壱岐の民俗学者・山口麻太郎氏によると、一年の禍福を司る歳神様への供えものの飾りだそうです。漁どころ生月を象徴する民俗文化として、ながく継承してもらいたいものです。

 




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