生月学講座:キリシタン関係虚構系資料の分類
キリシタン信仰に関係する虚構系資料については、拙著『かくれキリシタンの起源』第5章2項(2018年)で詳しく触れていますが、今年になって千提寺キリシタン資料館や西南学院大学博物館で虚構系資料というカテゴリーで企画展が開催されるなど関心が高まっていることもあり、改めてその分類について考えてみようと思います。
キリシタン信仰に関係する虚構系資料とは、キリシタン信仰や禁教に関する資史料や記録、また現存するかくれキリシタン信仰での実際の使用例などに基づく学術的な検証によって判定されたものでは無いのに、近現代の人が聖書の記載やキリスト教のあり方などを参考にした主観的な判断に拠って、キリシタン信仰や(禁教期を含む)かくれキリシタン信仰、禁教制度に関するものだと主張している資料です。
キリシタン関係虚構系資料は、成立の背景に依ると、(1)キリシタン信仰、(2)かくれキリシタン信仰、(3)禁教制度に関係したものに分類されます。(1)にはブラケットのイミテーション、(2)には魔鏡、十字架仏、(出自や根拠が明確でない)「マリア観音」と言われる女性像、織部灯籠、十字など特定の記号が刻まれた墓碑、特異な形状の像などがあり、(3)には紙踏絵、踏絵、(出自不明の)禁制高札などがあります。
次に資料の出自には、①土産物、②偽資料として販売する目的で製作されたもの、③出自が不明瞭の非関係資料などがあり、①にはブラケットや「マリア観音」のイミテーション、②には魔鏡、十字架仏、紙踏絵、踏絵、禁制高札など、③には織部灯籠、十字など特定の記号が刻まれた墓碑、特異な形状の像などがあります。
経済的側面に注目すると、A.商品として販売・購入された物と、B.非商品に分けられます。Aにはブラケット・マリア観音のイミテーション、魔鏡、十字架仏、紙踏絵、踏絵、禁制高札などがあり、Bには織部灯籠、十字など特定の記号が刻まれた墓碑、特異な形状の像などがあります。この分類に関連して用途に注目すると、禁教期変容論に基づいた架空のかくれキリシタン信仰の存在を肯定するための根拠付けの資料として用いられ、こうした状況(価値)を前提として虚構系資料が商品として流通・コレクションされてきた経緯があります。また私立や公立の資料館・博物館がかくれキリシタン信仰を紹介する目的で展示するため、虚構系資料を購入したり寄贈を受けたりしてきた状況もありますが、いったん収蔵された資料を虚構系資料だと認める事は、支出の妥当性が問題となったり、寄贈者に対する非礼になると判断される事から、難しいところがあるようです。
以上は学術上の見解ですが、宗教という分野では過去、虚構云々が問題とされて来なかった状況があります。中世のヨーロッパでは夥しい数の聖遺物が「創造」され、キリスト教の信仰対象とされることで信仰の拡大・深化に寄与してきました。こんにちでも虚構系資料を祀り信仰対象とする事は、宗教というフェーズでは非難される事ではないのですが、それらを(かくれ)キリシタン信仰に関する資料だと主張する事は誤りです。
このような虚構系資料をイメージという分野で捉えていく事は、今後の研究の展開にとって重要な事だと思います。ただその場合、実際に存在する信仰の研究とは厳然と一線を画する必要がある事は言うまでもありません。(中園成生)
2024/12/02